その殺人は、それを裁く法が存在しなかった。
 その殺人で、殺されたのは人間であり人間でなかった。
 その殺人が、可能だったのは内にも外にも十指に余る。

 交易所のドアを開けた時、最初にアリスの目に入ったのは天井の梁からロープでぶら下がるキャロルの体だった。ロープはキャロルの首にしっかりと絡みつき、脚を床から引き離していた。キャロルの体はピクリとも動かなかった。
 アリスにわかったのはキャロルが死んでいることだけだった。見回したがモンスターの存在はなく、他のキャラクターもいなかった。なのにキャロルは死んでいた。不可解な状況に出会い、アリスは悲鳴(アラーム)を挙げた。

 世界はアリスのアラーム(悲鳴)を聞いて世界の動きを凍らせた。これは造物主からそのように命じられていたからだ。そして造物主を呼んだ。彼らの裁決を仰ごう。

 麻生はアラームを聞いて自分のモニターから目を離した。ワールドサーバーがアラームを出している。麻生は舌打ちをしながら立ち上がった。
「バグかよ……」
 白紙のバグ票を手に取り、ワールドサーバーのモニター前に座りなおし、バグ票に自分の名前と時計の時刻を記入した。画面には黄色地に黒でエクスクラメーションマークが出ており、その横にはF6と言う番号がついていた。麻生はそれが何を意味するか、あるいは何も意味していないことを知っていたが、念のためにモニター前に備え付けの仕様書を開き、そのF6の意味を調べた。
「F6:ユーザーからの強度のシステム障害報告。ワールドクロック停止処理が必要なレベル」
 バグ票にバグの番号を書き込みながら、ふと手を止めた。
……ユーザーからの? ユーザーはいないのに?