封鎖された殺人現場につき、パトカーから降りた時、なじみの警官が駆け寄ってきて状況の説明を始めた。
「殺人です。現場の封鎖も完全に行われました。殺人犯は確実にこの会場内にいます」
「で? なんでそれで逮捕できないんだ。――ああわかった。言わなくてもいいぞ」
 白い雪に覆われた会場の建物には、クリスマスのデコレーションがなされ、催し物の板にはこう書かれていた。「――サンタクロース・オブ・ザ・ベスト。誰が最もサンタクロースか」
 刑事は諦めたようにため息をついた。
「で、被害者は?」
「サンタクロースです。お察しのとおり」
 警官は申し訳なさそうに言った。
「で、犯人もサンタクロースだと」
「恐らくは」
 会場に入り、事件の概要を聞く。
 コンテストが始まる時、ステージには十数人が一度に滑れる特製の幅広滑り台が用意され、そこをエントリーしたサンタクロースたちが一斉に滑り降りてくるはずだった。
 開始時刻10分前からサンタクロースたちは客席から見えない滑り台の上に並び、5分前には全員がいることをスタッフが確認している。それから開始までの時間の間に、スタッフはサンタクロースたちの体格を考慮して、最も見栄えがするように何人かに場所を入れ替わるように指示し、指示されたサンタクロースたちはそれに従って動いたとのこと。
 そしてコンテストが始まり、サンタクロースたちが一斉に滑り台を滑ってステージの上に現れた時、一人のサンタクロースの胸にナイフが刺さっていたと言う按配だ。
「スタッフは滑り台の上から途中で離れた者はいないと言っています」
「滑り台そのものにナイフが刺さるような仕掛けはなかったか? あるいは、服の方に」
「現在のところ、何も見つかっていません。ナイフは長さ30センチを越えるもので、刃は標準よりも薄く細くなってます。また、刃は引いており、刺す専用に調整されてました」
「それだけ特徴的なナイフなら、出所で何か見つかるかもな」
 刑事は容疑者の群れを眺めてつぶやいた。
「サンタクロースがサンタクロースを殺したのか……」
 そこにはずらりとサンタクロースが並んでいた。恰幅のいい初老の白人男性ばかりで、皆一様にふさふさした眉毛とひげを蓄え、ほとんどがファーのついた赤いコートを脱いで、腕にかけている。やはり暖房の効いた会場内では暑いのだろう。全員の額は赤く染まり、汗が光っている。
「……暑いだけじゃあ、なさそうだな」