太陽を盗んだ男

 昔々、あるところに一人の男がいました。
 その頃の世界は夜が暗く、人々は闇が世界を覆う間、獣に襲われはしないか、泥棒が来ないかと不安に思いながら過ごしていました。
 男はそんな人々を見て、「もし、夜の間も太陽があったなら、どんなにかいいだろう」と考えました。
「あんまり明るすぎても困る。そうだ。太陽のかけらがあればいいんだ」
 そこで男は、太陽のかけらを手に入れる方法を考えました。
「太陽のかけらを手に入れるには、太陽の所まで行かなければならない」
 そこで男は、太陽のところまで行く方法を考えました。
「太陽のところに行くには、飛んで行くのが一番だろう」
 そこで男は、飛んでいく方法を考えました。
「飛ぶには、飛ぶための道具と、世界で一番高い山に行く方法が必要だ」
 そこで男は、飛ぶための道具を作りました。それは翼を持った物で、飛行機と名づけられました。
 飛行機を作った男は、今度はそれを世界で一番高い山に持っていく方法を考えました。
「世界で一番高い山に行くためには、そのための道具を作るのが一番だろう」
 そこで男は、山を登るための道具を作りました。それは四本の脚を持った物で、タンクと名づけられました。
 タンクを作った男は、今度はそれを世界で一番高い山のふもとまで持っていく方法を考えました。
「世界で一番高い山のふもとに行くためには、そのための道具を作るのが一番だろう」
 そこで男は、大地を走るための道具を作りました。それは車輪を持った物で、車と名づけられました。
「うん、これで大丈夫だ」
 車を作った男は、飛行機をタンクに載せ、タンクを車に載せ、それから車に乗って出発しました。
 男は車で世界で一番高い山のふもとに着くと、車からタンクを降ろしました。
 男はタンクで世界で一番高い山のてっぺんに着くと、タンクから飛行機を降ろしました。
 男は飛行機に乗って、太陽のところを目指して飛んで行きました。
 けれど太陽は男が考えるよりもっともっと遠かったのです。男は太陽にたどりつく前に疲れ切ってしまいました。
「もう体が動かない。太陽には届かないのか」
 男がそう言って嘆いていると、男の目にある物が見えました。
 男は太陽に届きませんでしたが、太陽の周りで何が起こっているかが見えるくらいには近づいていたのです。
 太陽はかけらを振りまきながら走っており、そのかけらは夜になると星になるのです。そして、星の中には、空に留まっていられずに地上に墜ちてくる物もあったのです。
「そうか、太陽のかけらは、足の下、ずっとずっと深いところにあったんだ」
 男はそう思うと力が湧いて来ました。
 男は世界で一番高い山のてっぺんに戻りました。そこに飛行機を置くと、タンクで世界で一番高い山を降りました。そこにタンクを置くと、車もそこに置いたまま、昔、星が墜ちた場所に行きました。
 男は地面を掘るための道具をいくつもいくつも作りました。そして地面を掘り返し始めました。
 最初に、黒い水が出てきました。それは真っ黒で太陽のかけらとは思えませんでしたが、火をつけると太陽のように燃えました。
「これは太陽の熱だけがわかれたものに違いない。もっとしっかりした太陽のかけらはないだろうか」
 男は石油を放り投げてさらに地面を掘り返しました。
 次に、きらきら光る七色の石が出てきました。それはとてもきれいでしたが、暖かくもなく、太陽のように重くもありませんでした。
「これは太陽の輝きだけがわかれたものに違いない。もっとしっかりした太陽のかけらはないだろうか」
 男は宝石を放り投げてさらに地面を掘り返しました。
 次に、あかるくきらめく重い鋼が出てきました。それは太陽のように重く美しいものでしたが、やはり暖かくありませんでした。
「これは太陽の色だけがわかれたものに違いない。もっとしっかりした太陽のかけらはないだろうか」
 男はプラチナを放り投げてさらに地面を掘り返しました。
 最後に男は、望みのものをみつけました。それは太陽のように重く、刺激を与えると、太陽のように輝き、太陽のように熱くなりました。
「これだ。これが太陽のかけらなんだ」
 男は喜び、それをウランと名づけました。
 ウランを持って地上に戻ってきた男は、そこで信じられない物を見ました。
 見たこともない怪物が、森を、平原を、村を、街を、人を、次々に壊して殺して焼いていたのです。
 その怪物は、車輪で素早く移動し、車輪が使えないところは脚で乗り切り、脚が使えないところは翼で乗り越えました。
 その怪物は、石油を飲んで動き、プラチナの皮で全ての武器を防ぎ、宝石の瞳から炎の視線を飛ばしました。
 男は驚きました。あの怪物は、男が捨てた物を寄せ集めて作られていたからです。男が捨てた車、タンク、飛行機、石油、宝石、プラチナ、それらの寄せ集めだったのです。
「誰がこんなことをしたんだ!」
 男は叫びました。逃れてきた村人が男を見つけました。
「おまえはなんてものを作ったんだ! あの怪物は俺の家を、財産を、家族を、全て焼き払ってしまったぞ!」
 男はこたえました。
「俺はあんなものを作ってない! 一体誰が作ったんだ!」
 それは誰にもわかりません。男は、とにかくあの怪物を止めようと思いました。
 男はウランを持っていることも忘れて、怪物に走り寄りました。
 怪物は男が近づいてくるのに気づき、その熱い視線を男に向けました。熱い視線は男を丸焼きにするだけでなく、男が持っていたウランも丸焼きにしてしまいました。
 ウランは、元の太陽のかけらになりました。地上に太陽が出現したのです。
 ウランが燃え尽きた後、そこには街も山も人も草も石も海も森も、全てのものがなくなっていました。
 いえ、一つだけ残っています。それは、将軍と呼ばれる男でした。この将軍が、男の捨てた物を拾い集めて怪物にした張本人だったのです。
 将軍は言いました。
「兵士は、また集めればいい。武器は、また集めればいい。征服するための土地は、また探せばいいのだ。――さあ、次の戦争の準備をしよう!」
 将軍はどこかに行ってしまいましたが、死んでしまった訳ではありません。次の戦争の準備のために、世界中をかけ回っているのです。――今でも。

司書補講習の中で実際に絵本を作る演習があった。
その時考えた話候補の一つが、この話の元になっている。
最初の時点では、エルリック・サーガの挿絵を描いていた頃の天野喜孝風味な絵を添えてやろうと思っていたが、さすがに絵本にしてはブラックな題材だったので、結局別のネタを採用して絵本を作った。
まあ、不意に思い出したので、そのまま忘れてしまうのももったいなくもあり、ここでこうやって形を整えてみた。
もし実際にこんな内容の絵本があったとしたら、きっと読んだ子供にトラウマを与えられるんじゃないかなと密かに期待している。
誰か絵にしてみない? マジで。