一日目

 私が帰った時、家の中は何もできていなかった。
 夕食は愚か、洗濯機も掃除機も私が朝出た時そのままになっていた。何か嫌な予感がして、慌ててリビングの照明を入れると、果たして妻はそこにいた。
「……何やってるんだ」
「んー、読書」
 ソファーに寝そべり文庫本をめくる妻の横には、誰かから借りてきたとおぼしき同じような文庫本が七冊あった。
「なんだこりゃ……三国志ぃ?」
「んー」
 妻は文庫本から目を離さずに、肯定とも否定ともつかない返事をした。そのあまりにも没頭した様子に、私は溜息とともにまともな会話を諦めた。こうなった妻は、どうにも動かないだろう。
「今日は俺がするけど、明日はちゃんと家事してくれよ?」
「んー」
 通じたのかどうかははなはだ怪しかった。いや、通じてないだろうなあ。
 私はもう一度溜息をして、台所に立った。