二日目
私が帰った時、やっぱり家の中は何もできていなかった。
まさかと思いつつ、リビングの照明をつけると、やはりそこに妻がいた。寝食も忘れ、日が落ちたことにも気付かず、同じ姿勢で同じように本を読んでいた。ただ一つ、読んでいる本が違っていた。
「……間違い探しじゃないんだからさあ」
「んー」
よく見ると、文庫本ではなく単行本であった。タイトルは、秘本三国志。
「……どうだ。面白いか?」
私は精一杯の皮肉をこめて妻に問うたが、それに気付いたのか気付かなかったのか、妻の返事はシンプルだった。
「あんまし」
天下の陳舜臣も物の価値のわからない人間にとってはこんなものか。
私はもう一度溜息をして、台所に立った。